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ホスラブてめちゃ保守

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だよな

045

けっきょくは吉田が、反主流派に一歩を譲ってことをおさめざるを得なかった。妥協案として幹事長に、林譲治を指名することになった。

「松野君を呼べ。いま、すぐに……だ」
反主流派と、その背後の鳩山派とに、みごとに寄り切られた屈辱感が、彼の表情を歪めていた。
― 反主流派といっても、せいぜい、三、四十人だ。鳩山派はまだ、議席さえもっていない。というのに、このぶざまさでは……このさきの政局が思いやられる。
「なんとか、ならんものか?」と吉田は、ほどなく外相官邸の応接間にあらわれた松野に、のっけからそういった。
「なんとでも、なりますな」と、松野は落ち着いていた。
「早い機会に、衆議院を解散すること……これが最良の策といえましょう」
「それじゃあ君、まるで鳩山派に、議席を与えるようなものだ。連中に、さらに力をつけさせてしまう」
そう吉田は、反論した。
「逆ですよ」と、松野は答えた。
「……抜き打ち解散です。秘密にしておいて、こちらだけ選挙準備をしておく。できたところでいきなり解散……となれば、選挙準備のない鳩山派の解除組は、大部分、落選してしまう。

046

鳩山君、三木、河野、石橋君といったところは、当選してくるでしょうが、そうなったところで少数派ですよ。気合いもかからなくなる、雷同する奴も減る。数がなければ、連中も、なにもできんでしょう」
そういわれて、吉田もこれ以外、さしあたっての対策はないように思われた。
「それでいこう」というなり、吉田はベルを押して、
「広川、保利君に、すぐくるよう、連絡したまえ」
そうと決まったら一刻も早く、この抜き打ち解散で、鳩山派に一矢報いなければ気がすまない……そんな感情に、吉田は駆られていたのだ。
吉田が、この計画を広川農相と、保利官房長官に話したとき、広川はその真黒いとぼけた顔をつるりと撫でて、こういった。
「いっそ、その選挙のさいにですな。三木武吉、石橋湛山、河野一郎と、この三人を除名しちまいましょうや」
こともなげな、いい方であった。そうすれば、たしかに鳩山一郎そのものが自由党議員になってきたところで、三人は党外にいて、一緒には行動できない。
「いい知恵だ」と、松野が賛成した。
吉田も、満足げにうなずいたが、ふっと彼の脳裏を掠めるものがあった。

047

― 五年前の22年。第一次吉田内閣組閣のとき、反対する総務会を、三木がまとめた……林譲治から、その経緯を聞いている。その礼は、返さねばならんだろう。
吉田は、広川にこう指示した。
「除名は……石橋、河野二人だけでいい」
広川は、不服そうな顔をした。鳩山派の総参謀三木を斬らなければ、効果は半減してしまうからだった。
― なぜ、元凶の三木を、斬らないのか……。無言のまま、眼で、松野に問いかけた。松野はしかし、吉田の意のあるところを、いち早く察していた。
「石橋、河野君二人でいい。総理には、別のお考えがある」
極秘の選挙準備は、法手続を保利、党体制を広川、資金を池田蔵相と佐藤郵政相と、分担をきめてすすめることになった。
準備がととのったところで、吉田が抜き打ち解散を断行したのは、臨時国会を召集した翌日― 8月27日であった。
このときの総選挙は、吉田派が「自衛力漸増」を掲げたのに対して、鳩山派はステーション・ホテルに別に本部を設け、石橋、河野が采配をふるい、「政権授受」と「再軍備」を叫んで、別個の政党であるかのように闘った。

048

吉田派が予定どおり、石橋と河野とを、党規違反の理由で除名したのは、投票日の二日前― 9月28日であった。それは吉田、鳩山両派の抗争を、いよいよ熾烈なものにしていった。
選挙の結果、自由党は45名を失い、過半数を超えること、わずか七名の245名になった。そのなかで広川は「190名が吉田派である」と豪語し、河野が「鳩山派は119名」と応酬した。
事実は、鳩山派は二十余名前後であった。そのかぎりにおいて、松野の抜き打ち解散は効果はあったのだが、自由党が過半数を超えること、たった七名に減ったところに、あらたな弱点が生じた。
もしも鳩山派二十余名が反旗をひるがえし、改進党、左右両派社会党と連合して鳩山なり改進党総裁の重光葵を首班として投票すれば、それに吉田は敗れ去る懸念があった。
野党がそこまでの結束はしないにしても、鳩山派が欠席反対すれば、吉田はようやく決選投票で、首班指名をかちとる他ない。あとあと、鳩山派が法案、案件の成否について、キャスチングボートをにぎることになって、政局の不安定はまぬがれないのだ。

049

松野は、こんどは鳩山派の抱き込みにかかった。
「一度、君と懇談したい」と、松野が三木に電話をかけて、赤坂の料亭に呼び出したのは、10月のなかばであった。二人のあいだには、戦前から古い党人としてのつきあいがある。ざっくばらんに松野は、
「実は、吉田と鳩山と、会わせたいのだ」と、切り出した。
そういった吉田派の出かたを、三木も予想していた。
「だろうと、思っとった。で、それで吉田首班の実現に、協力せいというわけか」
「そんなところだ」
こういう場面にそなえての腹案も、とうに三木の肚のなかにはできあがっていた。
「吉田・鳩山会談に応じてもよいがだ、それには条件があるぞ」
「もちろん、ただ……というわけにはいくまいからな。が、あまりむつかしい条件は、出してくれるな」と、松野は笑った。
三木が松野に示した条件は― 鳩山派の主張である憲法改正を準備するため、憲法調査会を設置すること、ワンマン人事をおこなわない党内民主化を期すること、それに石橋と河野の除名を取り消すことであった。
― これさえ吉田にのませれば、外濠を埋めたことになる。
そんな思惑であった。

050

「承知しよう。そのかわり吉田・鳩山会談で、協力を約束してくれ」と、松野はあっさり承知した。
― そうしておいて、吉田首班を実現させたあとは、三条件の実行を遅らせればいい……と、松野にも計算があった。
二人のあいだに、「10月22日に、吉田・鳩山会談をひらく」約束がかわされた。
「それにしてもだ……」と、三木はある疑問を松野にただした。
「総選挙のときにだな、なぜ、君たちは、石橋、河野を除名して、おれだけを、そうせなんだのだ?」
「吉田の意向でね、君だけ省いたのさ」と、松野はにやりと笑った。
その事情がのみ込めて、三木は無言でうなずいた。
― 本当は、吉田という奴は、肚を割って話したら、わかる男なのだろう。だが、二十数年、そういうときを持てずに過ぎてきた。このさきもおそらく、そんな機会はあるまい。ただ、政敵として、対峙するだけにおわるだろう……。

吉田・鳩山会談は、「三条件は、承知した」という吉田に、「君に協力する」と鳩山が答えて、短い時間のうちに終った。

051

こうして、ことなく第四次吉田内閣は発足した。

首相― 吉田茂、法相― 犬養健、外相― 岡崎勝男(留任)、蔵相― 向井忠晴(財界)、文相― 岡野清豪(留任)、厚相― 山縣勝見、農相― 小笠原三九郎、通産相・経審長官― 池田勇人、運輸相― 石井光次郎、郵政相― 高瀬荘太郎、労相― 戸塚九一郎、建設相・北海道開発庁長官― 佐藤栄作、保安庁長官― 木村篤太郎、行政管理庁・自治庁長官― 本多市郎、国務相― 林屋亀次郎、国務相― 大野木秀次郎(留任)、国務相・官房長官― 緒方竹虎

池田、佐藤という吉田学校の二本の枢軸はそのままであったにしても、小笠原、石井、戸塚、緒方といった解除組が加えられて、戦前、戦後派の融和と、鳩山派への牽制とがはかられていた。
緒方の起用が、このときの組閣の眼であった。
「このさいの組閣は、ワンマンであってはいけませんな」という松野の進言を、吉田が容れた結果であった。
ことに緒方は、吉田体制の大番頭として、松野が推したものであった。緒方を推すとき、松野は吉田に、このようにいい添えた。
「重厚な、良識に富んだ紳士ですな、彼は。総理のよきアドバイザー、党と内閣のおもしになりましょう」

052

その緒方がはじめて、11月初旬のある日閣議のあとで、吉田に苦言を呈した。
「鳩山との三条件……早く処置せんと、政局上、いけませんな」
吉田は、みるみる表情を硬くした。
「考えておく」と、緒方を突き放した。
「しんけんに……考えていただきましょう」
と、緒方はずっしりとおもみのある声音で、吉田に釘をさした。
吉田は、もう答えようとしなかった。
― 党内民主化は、幹事長の林君がとりしきっている。石橋、河野の除名取り消しは、時期というものがある。鳩山派の協力の模様をみてからだ。憲法調査会は、国の基本政策にかかることで、改正を前提とした調査会というのでは、承服できない。
と、吉田は、彼なりの論理をもっていた。
ただ、それは鳩山派には、まったく通用しない論理だった。三木は25名の鳩山派を結集して安藤正純を委員長に、党民主化同盟を結成した。

ほどなく三木が、吉田に一撃を与える機会がおとずれた。11月27日の衆議院本会議が、それであった。右派社会党の加藤勘十の質問をうけてたった池田通産相が、失言をしたのだ。
「中小企業の五人や十人、倒産してもやむを得ない」

053

げんみつには、そういったのではなく、「経済原則に違反して、不当投機した人間が倒産しても……」と答弁したのだが、野党はたちまち、
「中小企業を倒産させてよいのか!」と、総攻撃に出た。改進党、左右社会党合して、翌28日には、池田通産相不信任案を提出することになった。
この機を、三木の三白眼は見逃さなかった。鳩山民同に集合を命じ、
「一致して、欠席だ」と、指示した。
その25名の欠席で、自由党の不信任案反対票は202票に減り、野党の不信任案賛成票208票に六票差で敗れ去った。不信任案は成立をみて、池田は閣僚を辞任せざるを得ない羽目に陥った。
「……通産大臣池田勇人君に対する不信任案は、成立致しました」という議長の声に応じて、どっとあがる野党側の喚声のなかを、池田は黙々として本会議場から去った。
院内の通産省政府委員室に戻って、むっつりと、辞表をしたためた。それを総理大臣室に届けた。院内閣議室の奥にあるその部屋では、吉田を囲んで緒方官房長官と、佐藤建設相とが、池田を待っていた。
「ご迷惑をかけました……」と、池田は辞表をさし出した。

054

吉田は、にがり切った表情ではあったが、それは池田に対してではなかった。
「君がわるいんではない。政治家が、いいたいことが正直にいえんで、どうするか。野党の奴ら……とくに怪しからんのは、鳩山派だよ。処分すべきだ」
激したものに、吉田も揺すぶりあげられていた。
「池田君、気を落とすな」という佐藤も興奮の態だった。
「いや、気は落としゃあせん」と、池田は、強情を張りながらも、表情が怒りに硬直していた。

緒方ひとりが、冷静を保っていた。
「池田君がこうなったさい、あえて、総理にいわせていただきたい」と、ゆっくりと口をひらいた。
「このままの状態では、補正予算採決のおり、鳩山派は欠席ということになりかねません。予算案は、否決になる。となれば、内閣は総辞職か、解散か、大事に至ります」
「…………」
三人ともが、押し黙っていた。
「いま、鳩山派に対する怒りはいちおう忍んで、やはり、連中の協力を得ねばなりますまい。で石橋、河野両君の除名を取り消して、鳩山派と話し合うことが、内閣にとっては、賢明と……私は思います」
吉田は、すっかり意地になっていた。

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