356 4時からの交渉は、事実そのとおりに苛烈だった。一歩もたじろがない河野に、「そんなことが、承認できるか……」と、フルシチョフはテーブルを叩き、 「そんなら決裂だ」と喚いた。 あとで河野は、「ああいう交渉は、一生に一度でたくさんだ」と洩らしたくらいであった。フルシチョフの攻めに、河野は、 ― 決裂か……。 と思った瞬間、貧血症状のめまいをおこして、テーブルに突っ伏した。しばらくソファに横になりながら、もつれる舌でフルシチョフに応酬した。最後にフルシチョフは、またしてもテーブルを、どかんと叩いたが、こんどはこう怒鳴った。 「よし、なんとかしよう……」 ようやくのことで、双方が譲歩し合うことになった。歯舞、色丹については、「ソ連は、平和条約発効時に、歯舞、色丹を日本に引き渡すことに同意する」と、これはフルシチョフが一歩譲った。 南千島の継続交渉については、河野が折れて出て「両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する」という表現をとることになった。 戸川猪佐武2018/01/29 20:001