000

左翼は偽善者、保守派は正義

+本文表示

だよね?

763

「明日に決定を持ち越すといっても、もう議論は出つくしている。私としては16日召集の線は動かせないのだから、明日の閣議は持ち回りとして、それで決めていただく」
いってみれば明日は実際には閣議を開かず、内閣官房の事務官が臨時国会召集の書類をもって各閣僚のところを個別に回って、それぞれの署名を求めるー という方法をとるというわけだ。
反主流派の閣僚は三木の強情な出方に思わず顔を見合わせ、次に三木を凝視した。三木の面上には
ーもしその書類を持ち込まれた時に召集に反対という閣僚があれば、辞表の提出を求めたい。もし辞表を出すのを拒否するならば罷免権を発動する。
という決然たるものがみなぎっていた。
こうして臨時閣議が幕をとじたのは、午後11時であった。

その夜、三木のところに二本の電話があった。一本は椎名悦三郎副総裁からであった。
「ぜひとも明日、総理と懇談したい」
井出官房長官からその電話を取り次がれた三木は、受話器を手にするなり
「時間がない。明日といっても時間があるかどうかわからない」
と、にべもなく断わった。その冷淡なほどの言葉を聞いて、椎名も三木の動かし難い決意を知った。

764

椎名は切れた受話器を暫くそのまま手にしながら、思わず呟いた。
「こりゃ、三木は本気だぞ」
受話器を元に戻した椎名は 秘書に向かって保利茂、船田中、それに福田、大平へと電話を繋がせた。そのいうところは
「下手をすると三木は本気で罷免権を発動し、内閣改造をしてでも臨時国会召集を押し切る。分裂を覚悟の様子だ。挙党協もある線で考え直さにゃいかんぞ」
ということであった。
もう一本の電話は中曽根からであった。
「このまま進めば党は分裂です。あなたは既に分裂を覚悟しておられる。しかし、できるならば分裂は回避しなければならない。このためにもう一度努力してみたいと思います。総理にもそう願いたい。つまり総理にもう少し……若干の譲歩をしてもらうことです」
「譲歩……それは何だね?」
と重苦しい三木の返事が返ってきた。中曽根が何をいい出すのかと慎重に構えている様子だった。
「あなたが総裁として議員総会に臨むことです。そこで誠心誠意、国務優先の臨時国会召集を訴えることです。そしてその席で臨時国会中は解散はしないこと、10月に臨時党大会を開いて挙党体制を確立すること、この二点を言明するという案です」

765

電話の向こう側で三木が考え込んでいる様子で、わずかの沈黙があった。これまで三木は議員総会に出ることを好まなかった。また挙党協代表としての保利や船田に会うことも好まなかった。厭な場面は避けて通りたいという心理からであった。また総理総裁の立場上、おいそれとは応じられないという格式張る気持ちからであった。今それについて、中曽根は譲歩を求めたのである。
沈黙している三木に向かって中曽根はいった。
「この私の妥協案は内容的には先の総裁所信といささかも変わるところはありません。ただ異なるところは、あなたが議員総会に出て これを訴えるという形です。あるいは あなたとしては気が重い、気が進まないかも知れませんが、総理総裁が自分の党の議員総会に出て所信を披瀝することは、これは当然のこととお考えいただきたい」
受話器の向こうで三木が微かに頷いたような気配を中曽根は感じとった。それで中曽根は語気を強めて三木に迫った。
「諒承いただけますか。また私にお任せいただけますか」
「君に任せるよ」
という短い返事が中曽根の耳に返ってきた。

三木との電話が終わった後、中曽根は今度は大平に電話をした。

766

たった今、三木に話した案を手短に大平に伝えた上で
「総理がそうすることで反主流派の納得を得られるものかどうか、というよりあなたの力で皆を納得させてもらいたいのだが……」
と中曽根は結んだ。
すぐに大平の返事がないので中曽根は続けていった。
「総理が議員総会に出席して自分の信条を披瀝する……というこの案は、先だってからあなたがしばしば仰有っていたことだ。いい換えれば これはある意味では大平案ということでもあります」
「君はうまいことをいう」
大平は微かな笑い声をたてながら そういった。
「中曽根君、僕は承知するよ。ただし福田君はどうかな。僕からも説得してみるが、君からも口説いてくれたまえ」
「ありがとうございました。それでやってみたいと思います。が、あなたが持ち出したのでは挙党協も反撥するかも知れませんから、公式には われわれ執行部からの提案という形で進めたいと思います」
「それは そのほうが望ましい」
「ただし仮にあなたと福田さんがご諒承なさっても、挙党協が突き上げるかも知れません。その辺をご両所で収めていただかないと、これは何ともならないことです」

767

「その辺りはいいよ。今度はしっかりと、一つやろうじゃないか。それにしても明日の朝早々にでも会いたいな」
大平は珍しく積極的な構えを見せた。
翌朝会談する約束をして大平との電話を切った。中曽根は続けて福田邸に電話をかけた。結論としては福田も
「まあ、そういうことで妥結をしようじゃないか」
と中曽根の案に同意した。福田にしても、この一両日の間に金丸国土庁長官や安倍農相などの意見、あるいは竹下建設相の見解を耳にしながら
ーこの総裁所信で妥結するのが、まあまあのところではないのか。
という方向に傾きつつあったのである。
しかもこの間に松野政調会長だけにとどまらず、倉石忠雄、坊秀男、早川崇といった自派の人たちから
「いま党を分裂させたら虻蜂取らずではありませんか。そこまで行かないとしても これ以上攻撃に出れば、あなたは三木さんと相討ちになって総理総裁の芽を摘まれてしまう危険がある」
と説得を受けていた。
それに福田としては
ー10月に党大会を開いて総選挙に臨む新体制を確立する……ということになれば、そこで三木の総理総裁の退陣、自分の総裁の就任が期せられる可能性は十分にある。

768

しかも臨時国会前に内閣改造と役員改選も行うというのだから、そこで後々に有利な人事を布石すればいい。自分の総裁実現が十分に期せられるだろう。
という計算もあった。
この夜ひそかに行われた中曽根の電話作戦は、三木、大平、福田とその側近を除くほかには洩れないまま、その10日の夜がとじることになった。

赤坂見附から平河町の坂を登り詰めた一角に、北野アームスは立っている。そこにある中曽根事務所を大平が訪ねたのは11日の早朝であった。大平は にこやかな表情であった。
「福田君も承知したようだな。今朝、電話で話をした」
「おかげさまで……」
中曽根はそういいながらも最も気になっているところを口にした。
「これであなたと福田さんのご諒承はいただいたわけですが、保利さんの方はどんなものでしょうかね」
さすがに中曽根も心配そうな面持ちであった。保利がこの案を叩き壊して大暴れするということになれば 全てがご破算になりかねないからであった。
「今朝早くね、うちの鈴木善幸を保利さんのところに走らせたんだ。

769

鈴木君から、君の新提案ということで、総理が議員総会に出席して約束する案を説明させた。鈴木君は『この提案は検討に価すると思うので、挙党協で協議してほしい』といういい方で保利さんに伝えた。が保利さんはさすがに老練だよ。『確かにその通りだ。そうしようじゃないか』と答えた。つまり保利さん自身は諒承したということさ。挙党協の面々を保利さんがとりまとめてくれると思うな」
中曽根の顔は ほっとした表情にほぐれた。
「そうなると やはり最終的には三木総理と保利さん、または船田さんが加わって会談を開き、この新提案をお互いが諒承した……という形をとらなければなりませんな」
「それが最もいいだろうね」
そんなことで中曽根と大平の会談は30分ほどで終わった。
この二人の会談の後、まだ政界のほとんども、また政治ジャーナリズムも気付かないうちに、事態は妥結の方向へ急速に流れ込んだ。
9時半から開かれた挙党協と党議実現推進委員会の会合では、事情を知らない多くの人々が相変わらずの気勢を上げたものの、そうした動きは既に圏外の動きでしかなかった。むしろ裏では保利の挙党協幹部への説得工作が展開されていた。

770

保利は電話で田中派・七日会会長の西村英一、挙党協世話人の船田中に
「中曽根君の新提案で この際は収拾してみたい」
という諒解を取りつけつつあった。
その時間、赤坂のプリンスホテルで開かれていた福田派・八日会の総会では、福田が取り澄ました表情で所信を述べていた。
「今は最大の危機、難局であるが、これを乗り切るための方策については 私に一任をしてもらいたい」
ここに集まった議員たち、倉石や坊、安倍たちを除いては、まだ中曽根の新提案を聞かされていないままに
ー親父が私に一任……といったのは、いよいよ分裂を決意してのことか。
と受け取った。
妥結を決意している福田は、プリンスホテルを出ると 誰にも内緒で近くにある東京海員クラブの一室に向かった。その部屋には中曽根が待ち受けていた。
「よお、いろいろとご苦労さん」
と福田の声は愛想よかった。
中曽根は新提案を正式に福田に説明した。福田もこれを諒承した。
中曽根の新提案のことが議員たちの口から口へと伝えられ、急速にひろがっていったのはこの後である。

771

11時に反主流派が一昨日から準備しておいた両院議員総会が、衆議院別館の五階講堂で開かれる時には、既に半分以上の議員たちが
「中曽根新提案で妥結するようだ」
と語り合っていた。
今日こそ分裂か、と中曽根提案を知らずに講堂に乗り込んできた連中は、それを耳にして狐につままれたような表情になった。気が抜けたような、ほっとしたような空気が集まった議員たちを領していた。
議員総会が開会したのは11時23分であった。上原議員総会長の挨拶をうけて壇上に立った保利茂が、表情だけは険しく演説を行った。
「持ち回り閣議で臨時国会召集の署名を求め、署名しない者を罷免するという暴挙を総理大臣にやらせるということは、私には到底耐えられないことだ。そうなれば党は分裂よりほかはない。分裂は避けなければならない。このために私は最後まで望みを捨てず、船田中先生とともに これから三木総理に会うことにした」
その演説の調子は いかにも悲痛、悲壮そのものであったがー 本当のところは中曽根新提案で妥結する形をつけるために、保利、船田が三木に会うということは既定、周知の事実になっていた。

772

にもかかわらず保利がもっともらしく悲壮ぶった演説をしたのは、いわば歌舞伎の約束ごとのようなものであった。
議員総会は三木、保利、船田会談が終わるまで休憩ということで皆が散っていった後、挙党協幹部の会合が総裁室でもたれたり、あるいは反主流閣僚の会合が開かれたり……といった動きがあったものの、全て妥結の形を整えるためのものであった。それにしても全ては昨日と打って変わって、台風一過の雰囲気であった。眺めている記者たちは 唖然、呆然とした様子だった。
ーよくもまあ、一晩のうちに こうも変わるもんだ。
ー分裂を予想された険悪な事態が、一挙妥結に転変するこのわざの速さは どういうことか。

首相官邸に保利と船田が乗り込み、中曽根を交えて四者会談が始まったのは、12時40分であった。
この四者会談で中曽根提案が諒解をみて、その後の閣議では ごく事務的に
ー臨時国会、16日召集。
が決定された。
昨日は大変な剣幕だった福田一自治相が円卓に手をついて
「総理。いろいろご無礼しました」
と頭を下げた。三木はにやりと笑った。
「僕は幸いなことに 健忘症なんでね……」

コメント本文必須

残り文字

名前/性別

トリップキー16文字マデトリップキーとは

ハッシュタグ

記号(@、+、-、!、?など)はご利用いただけません。

動画10MBマデ


画像5MBマデ(JPG|GIF|PNG)


削除PASS半角英数4〜16文字マデ

共有動画YouTubeの共有URLを入力

ホスラブは完全匿名で投稿できますが、ガイドラインをよくお読みになってご利用ください。

同意してコメント

1.アクセスログの保存期間は原則1か月としております。
尚、アクセスログの個人的公開はいたしません。
2.電話番号や住所などの個人情報に関する書き込みは禁止します。
3.第三者の知的財産権、その他の権利を侵害する行為又は侵害する恐れのある投稿は禁止します。
4.すべての書き込みの責任は書き込み者に帰属されます。
5.公序良俗に反する投稿は禁止します。
6.性器の露出、性器を描写した画像の投稿は禁止します。
7.児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(いわゆる児童ポルノ法)の規制となる投稿は禁止します。
8.残虐な情報、動物を殺傷・虐待する画像等の投稿、その他社会通念上他人に著しく嫌悪感を抱かせる情報を不特定多数の者に対して送信する投稿は禁止します。

利用規約に反する行為・同内容の投稿を繰り返す等の荒らし行為に関しては、投稿者に対して書き込み禁止措置をとる場合が御座います。

四国版の掲示板一覧

copyright© hostlove.com All Rights Reserved.

トリップキーとは?

個人を識別するためのキーです。
トリップキーに入力された文字列から、
毎回同じ暗号文字が生成
されます。

例:[ホスラブ] → u7hgpnMxsk

※他者にはトリップキーに入力された文字列が分からないと、同じ暗号文字を作ることはできないため、掲示板などで個人を証明するために用いられています。
※16文字以内で他者に推測されない任意の文字列を使用してください
1.アクセスログの保存期間は原則1か月としております。
尚、アクセスログの個人的公開はいたしません。
2.電話番号や住所などの個人情報に関する書き込みは禁止します。
3.第三者の知的財産権、その他の権利を侵害する行為又は侵害する恐れのある投稿は禁止します。
4.すべての書き込みの責任は書き込み者に帰属されます。
5.公序良俗に反する投稿は禁止します。
6.性器の露出、性器を描写した画像の投稿は禁止します。
7.児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(いわゆる児童ポルノ法)の規制となる投稿は禁止します。
8.残虐な情報、動物を殺傷・虐待する画像等の投稿、その他社会通念上他人に著しく嫌悪感を抱かせる情報を不特定多数の者に対して送信する投稿は禁止します。

利用規約に反する行為・同内容の投稿を繰り返す等の荒らし行為に関しては、投稿者に対して書き込み禁止措置をとる場合が御座います。

お手持ちのスマートフォンで下記QRコードを読み取ってください

友達にこのページをLINEで送信する事が出来ます。

名前/性別6文字マデ

トリップキー16文字マデトリップキーとは

コメント本文必須

残り文字

ハッシュタグ

記号(@、+、-、!、?など)はご利用いただけません。

画像5MBマデ(JPG|GIF|PNG)


削除PASS半角英数4〜16文字マデ

共有動画YouTubeの共有URLを貼り付けて下さい。

ホスラブは完全匿名で投稿できますが、ガイドラインをよくお読みになってご利用ください。

同意して投稿

ローカルルールと検索方法

政治・選挙・国際政治(社会・政治・経済)

ローカルルール違反の話題作成は削除対象になります。