313 楽しい話をしよう! 眠くなる小噺第2話 「あ、また会ったね」と言われた。 西麻布の交差点近くにあるクラブの地下二階。 「久しぶり」とノリで言ったものの、記憶はない。クラブは嘘が飛び交う空間ゆえに「あなた誰?」といった質問は野暮でしかない。 相手の記憶違いかな、と思いながら、「今日も一人なの?」と言われて、ほんとに俺はこの人に会ったんだろう、と思う。俺はクラブには1人でしか来ないから。そして1人でクラブに来る人は少ない。 「そうだよ。再会を祝して話をしよう」と、バーに連れ出す。 「今日は誰ときたの?」 「前と同じノリコだよ」 「ああ、ノリコちゃん」 「覚えてないの?」 「ごめん。覚えてない」 次から質問が続けられない。なぜなら、続いて「覚えてないの」と言われることになるからだ。何より、あいての名前さえ覚えていない。 黒木2024/06/26 02:051eZWzFDoo/Y