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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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木村運輸相に対しては
「国鉄運賃の値上げを行わない限り、国鉄は破産状態に陥ることは目に見えている。このことをこそ優先的に考えて、臨時国会召集を承知してもらいたい。君は反三木であり田中派に属しているが、今はそういうことを越えて考えるべき時期ではないか」
と口説いた。最後に会った大平に対しては、もちろん財特法の成立が急務であることを三木はくり返した。ただし三相とも三木の説得には応じなかった。
一方、三木のこの行動に呼応して、中曽根たちは五役会議を開いて説得への努力をさらに続けることになった。松野政調会長は河本通産相と会った後、木村、村上両相とも会い
「所管大臣として重要事項の懸案処理をまず考えてもらいたい」
と説得工作を続けた。
こうした三木や、中曽根、松野たち党五役の行動は、反主流派閣僚の納得は得られないとしても、一般的には
ー三木は国務優先という立場を貫こうと熱心に反主流派を説得している。
という印象を広く国民に与えるのには効果があった。
同時に党内に おもむろにではあるが
ー国務優先の上から臨時国会の早期召集はやむを得ないことではないのか。
という気運を醸成するのにも また有効であった。

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8日午前11時過ぎ、三木はまったく出し抜けに 世田谷野沢にある福田副総理の私邸を訪ねた。この日は福田は風邪気味で、自宅で静養中であった。
「具合はどうかね……」
と三木はまず福田に見舞いをいった後
「いよいよ僕も決心を固めたよ。やはり総理総裁としての責任上、国務優先の立場に立って臨時国会を早急に召集しなければならない。少なくとも次の閣議では この件を決定したいと思う」
と切り出した。
和服姿の福田の顔色は、風邪のせいかやや青ざめていた。福田は
「閣議といえば10日の金曜日……」
とつぶやくようにいった。賛成とも反対とも返事はしなかった。
三木としても、この突然の訪問によって福田の承認を得ようなどとは 毛頭期待していなかった。自分が福田を訪ねたことで、いかに努力しているかを党の内外に鮮明にすれば、それで目的は達したのだ。
この上、反主流派が臨時国会の召集に反対するようならば、世論は
ーなぜ反主流派は国務を優先しようとしないのか。国務よりも政権争奪が大事なのか。
という批判の声をいっそう強める……それを計算してのことであった。

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また反主流派の間にも、おいおいと
ー三木がそれだけ努力しているのならば、ある線で妥協してもよいのではないか。臨時国会召集は認めたらどうか。
という考え方が擡頭してくるであろうことも 三木の算盤の中にあった。

見たところではー 臨時国会の早期召集、懸案の処理について 大平蔵相、木村運輸相、村上郵政相も協力を拒否し、また三木の訪問を受けた福田副総理も賛成しないまま、局面はますます三木首相にとって不利な方向になだれていくもののように映った。
だが三木自身は むしろ局面打開の自信を強め、その最後の詰めを密かに練っていた。その結論を得たところで、三木が首相官邸に中曽根を呼んだのは 9日の午後遅くであった。
「党大会を10月中に開く……というのはどうかね」
三木は いきなり中曽根にそういった。
五役収拾案では「臨時国会の後、総選挙に臨む体制を作る」ということで、その方法、時期も具体的ではなかった。それを明確にすることで、三木としては挙党協側に譲歩したことになる。
ー自分が強硬な決意を敢えてしていることは 福田も大平も挙党協も、もう とうに承知しているはずだ。

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その俺が譲るべきぎりぎりのところまで譲歩すれば、先方も必ず譲ってくるだろう。
という計算からだった。
中曽根は 一も二もなく
「名案だと思います」
と答えた上で
「実は私もそれを考えていたところです。私どもの五役の収拾案では臨時国会のあと総選挙体制を確立するとしたわけですが、これでは抽象的過ぎて挙党協が納得し難いものであると考えました。そこでこの辺りを なんとか明確に示して、挙党協の納得を得られないものかと思っていました。いま総理がそれを考えられたことは 大変に結構だと思います」
「とにかく これでいこう。明日10日、僕はこのことを骨子として総裁所信というものを出して、全議員に訴えることにする」
三木が総裁所信と称する一文を綴ったのは その日の夜のことであった。
「予算の執行と国民経済安定のため、臨時国会を召集して財特法案その他の重要法案を速やかに成立させることが現下の国政の最重要課題である。従ってこの際は国務優先の見地から 一致協力して懸案処理を行うよう党員諸君に訴えたい。
過般来、党五役の政局収拾のための献身的努力を多とし、今後もその努力を続けてもらいたい。

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総選挙に臨む党の体制については、10月中に臨時党大会を通じて党内外にこれを明らかにする方針である。
こうした認識と信念に基づき、私はきたる13日をめどに臨時国会を召集する決意をもとに必要な手続きをとる」
この一文のペンを走らせながら、三木はこの総裁所信に対する挙党協のリアクションを緻密に思量した。
ー少なくとも10月党大会を開いて総選挙体制を作る……ということ一文の中から、挙党協は 三木は臨時国会中に解散をすることを断念した。三木は党大会において辞任し、新総裁を選ぶことも考慮している、と受け取るだろう。解散や総理総裁の出処進退については 具体的に言明できないことは かねがね挙党協の連中にもいっていることだ。それを謳うとすれば 10月党大会を開くということが精一杯だ。その辺も挙党協の連中には理解してもらえるだろう……。
総裁所信を書き終わった三木は、腕を組んで暫く瞑目した。
ー自分がここまで譲歩したのだから、反主流派も この三木の手で臨時国会を召集し、懸案を処理することを認めなければ困る。もしなおかつ認めない、この総裁所信をのまないならば、その時にこそ強硬突破だ……。

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三木は決意を新たにしながら10日金曜日の朝を迎えた。午前10時から首相官邸で定例閣議が開かれる。官邸に姿を現した福田と大平とを三木は総理室に呼び入れた。「13日をめどに臨時国会を召集する方針を僕は決めたよ。しかしやみくもにやろうというのではない。10月中に臨時国会が召集をされればその国会の会期中のことになるだろうが、その10月中に党大会を開いて総選挙に臨む体制を決めるということも合わせて決心をした」簡単にそう説明した後で三木は総裁所信の一文を福田と大平とに示した。二人は素早くその文字を追っていたが 読み終わったところで福田が三木に尋ねた。「10月中に党大会を開くということは あなたが総裁を辞任するということなのか。また臨時国会中には解散を行わないということなのか」「その点はだね、具体的には何ともいい難い。それはお二人ともお解りだろうと思う。とにかく僕の肚を読んでくれなくては困る」と答えた。続けて三木は「この総裁所信を発表して党員に訴える。いずれにしてもこれが僕の譲るべき最後の線だ。これが否定されるようであれば 僕としても重大決意をしなければならない」と威圧的にいった。

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福田も大平も暫くの間、沈黙に沈み込んだ。福田は
ー三木が解散をしない、総裁を辞めてもいい……という意志を固めたとみなすべきだろう。
と希望的な推理を働かせた。
大平はまた、この辺りについては別の思案があった。
ーあくまでこれは玉虫色で、解釈次第でどうにもなる態のものだ。としても これを呑まなければ三木は強硬突破に出るに違いない。分裂も辞さないだろう。そこにまで事態を追い込んではまずい。総裁所信の内容はともあれ、この辺が収拾の時期ではあるまいか。
大平が呟くようにいった。
「私たちとしては諒承する……しかし挙党協が何といいますかな」
「そこをだね、福田君と大平君の政治力で納得させてくれんと困るよ。それを僕は期待しているんだ」
三木はそういって、例によって大平の手を握り、福田の腕をさすった。

一方、この総裁所信をポケットに入れて、中曽根はその日午前中の自民党総務会に臨んだ。
反主流派の総務たちからは、福田が三木に投げかけたと同じような質問が飛び出した。
「10月に党大会を開くことは、三木首相は臨時国会で解散を行わないという意味なのか」
「10月党大会で三木は総裁を辞任する肚を固めたということか」

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それに対して中曽根は、三木が福田、大平に答えたと同じような答弁を行なった。
「総理総裁の進退、また解散権行使の問題については具体的にはいえない。そこでこういう表現になった、ということで承知をしてもらいたい」
それでもなお反三木派の総務たちは、口々に批判の言葉を吐いた。
「これでは先の議員総会で決めた通り……臨時国会前の党一新を期するという主旨が満たされていないではないか」
それに対しては中曽根が巧みな答弁を返した。
「党議の主旨は生きている。国会開会の後になるとはいいながら、党大会を開き党一新の態勢を整えれば、党議の主旨は十分に生かされるのではないか。この点で総裁所信は、先の議員総会の決議をのんだものといえる。しかし反面、臨時国会を早急に開いて懸案を処理することは、内閣のみならず党としても喫緊の要務だ。従って党一新が先で臨時国会が後であるというような考え方は、このさい止めてもらわなければならない。政治家の良心、良識からいって、臨時国会の前に党一新をなにがなんでもやるのだという主張は取り下げてもらいたい」

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結局は中曽根の説得や、これに続く灘尾総務会長のとりなしで、総務会としては一応この総裁所信を諒解することに決まった。
ただし総務の中からは
「それにしても13日に召集というのでは 手続きまでの時間がぎりぎりいっぱいで間に合わないのではないか。一週間か十日あとに延ばすことが妥当だ」
という意見が出た。
物理的にいえば時間が少な過ぎることは確かだが、今のような情勢では先に延ばすことによって政局に何が起こるかわからないという危惧があった。その辺を懸案した石田幹事長代理が、畳み込むように
「手続きに必要な時間があれば異存はないというわけだな。それならば13日はきついかも知れないが16日ならよかろう」
といってのけた。あっという間に石田の16日召集案が諒解された形になった。石田は肚の中でにんまりと笑った。
ーこれで総務会は16日に臨時国会召集と決まったわけだ。臨時国会召集日が決まればそれがタイムリミットになって、混乱は収拾の方向に向かうだろう。

この日、中央気象台は二百十日を控えて大型台風が本土に接近中であると報じていた。だが東京は雲一つない晩夏の晴天であった。

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それでも迫ってくる嵐を予感させるもののように、その午後には湿度55、気温31度へと不快指数はぐんと上がった。
5時から閣議が再開される。それに先立って総務会が終わった昼近く、井出官房長官は記者会見を行なった。
「総裁所信……16日臨時国会召集の件、党大会の件などを仮に挙党協が諒承されなくても、政府としては予定通り臨時国会を召集します」
この温厚な人物にしては珍しく、それは強い口調であった。この会見から得た記者たちの感触は
ー三木の決意は固い。反主流派が召集に反対すれば、閣僚を罷免してでも押し切る構えだ。となると臨時国会の冒頭で解散、党は事実上 分裂する。
という切羽詰まったものだった。それは当然 反主流派を刺激せずにはおかなかった。
正午から開かれた田中派七日会総会では
「両院議員総会をもう一度開いて党議を解かない限りは、誰も収拾案など決められるはずがないではないか」
「党議を三木首相が容れずに総裁所信で突っ走るというなら、党分裂も辞さずだ」
といった強硬論が中堅、若手の間に飛び交った。
大平派の宏池会でもほぼ同様であった。激越な三木批判が大勢を占めた。

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