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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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つまり三木君は自分の政権の延命を策して どんな手段でもとりかねないということだ」
「その点について われわれ五役も苦心したのです。この三項目をじっくり読んで下さればわかる通り、冒頭解散も臨時国会途中の解散も行わないということを言明しているのです。その点は信用してもらわないと困る」
「それはよいとして、さらに突き詰めれば、三木君の手で臨時国会を乗り切って解散をした場合、さらに三木君の政権が継続されるのではないか、それではやり切れないという思いが党内に広くあるわけだ」
「それは保利先生、政治情勢は或はその方向に動くかも知れないし、或は動かないかも知れない。しかし私たち五役は臨時国会が終わった後、総選挙体制を作るということを第三項目で明確にしております。この中には当然、三木首相の進退問題も含まれています」
「君の説明通りとすれば全く納得のいくところだ。しかし この表現が俗にいう玉虫色で、よそから見ると単に一片の約束手形としか映らん。それにかねてから三木君を信用していない人々から見れば約束手形どころではない、空手形のように見えるんだ。ここに問題がある」

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「とすれば、ここら辺りについて何か新しい具体策を示せばよい……ということですか」
「まず、そうだろうな」
保利はそう答えながら腕を組み、中曽根をみつめた。君に何かよい知恵があるか、という表情だった。中曽根はやや間をおいてから
「ないことはありませんが、しかし三木首相の意向としては総理大臣の進退は厳しいもので、いつ辞めるというようなことは明示できないという意見です。私も同じ考え方に立っています。そこまで具体的なことは表現できませんし、約束もできない」
「それはそうだ。そこまでのことは僕自身としても求めないし、挙党協も求めまい。ただこの収拾案以上に挙党協が納得できる形のものはないか、そこを考えてもらいたいな」
保利の話は中曽根に自信を与えた。保利はそこでにやりと笑った。
「今のは僕の本音だよ。しかし挙党協の代表としては公式的ないい分がある」
保利はにわかに改まった語調になった。
「いいかね中曽根君、五役収拾案というものは、いってみれば党機関としての執行部が作った案ということだ。党機関としての執行部ということになると、なぜこの五役の中に椎名副総裁が入っていないのかね」

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中曽根には痛い質問であった。椎名は三木おろしの口火を切った人間である。いまさら収拾案の作成に加わってくれといっても、それに参加しないであろうことは眼に見えていた。そこで殊更声をかけなかったのだ。だが儀礼的には五役収拾案を、中曽根も灘尾も椎名に電話で伝えている。
「椎名さんには電話でお話し申し上げた。それで諒承を得たものと思っているわけです」
「それはそれでいいがね。それともう一つ、三木君にも認識を新たにしてもらいたいことがある。それがなくては三木君の事態収拾への誠意が感じとれないからだ」
「それは何ですか」
「三木君の国務優先という理論は全くその通りだがね。しかし議会というものは召集するだけが目的ではない。議案を成立させることが目的だろう。このためには責任ある総理大臣として挙党体制を作らなければならないということだ。これを三木君に十二分に認識してもらいたいのだ」
「ということは三木さんが退陣の意思、時期を明らかにしなければ、挙党体制はできない……という意味でしょうか」
「必ずしも具体的に示すということではないよ。少なくともそれについての誠意が認められるような方法をとることだ」

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この保利の言葉に中曽根は首をひねった。いま明確に、どのようにしたならば三木首相の誠意が表明できるのか、中曽根には思いつかない。
「禅問答……ですな」
と中曽根はいった。
「つまりさ、これは阿呍の呼吸というやつだ」
そういって保利は笑った。
「まあ中曽根君、船田君にも会いたまえ。色んな人に会って誠意をもって説得する仕事を 根気強くやってもらいたいな。それと同時に 短気な発言や刺激的な発言は三木陣営でやらんように注意してもらいたい。そういうものが伝わると 不必要に挙党協が拳を振り上げることになってしまう」
こうして一時間近い二人の会談が終わった後、保利は立ち上がり際に中曽根の肩を叩きながら こういった。「多分この先、まだ何幕かの舞台が必要だよ。その幕々をうまく運ぶために、今日の君との会談では僕がこう主張した……ということにしておくよ。つまり五役調整案を作る場合、なぜ椎名副総裁を加えなかったか、その手続きに疑問があるということ、また臨時国会前の党一新という党議が前提でなければならないということ、それを僕が強力に主張した……ということにしておく」

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保利と別れた後、中曽根は記者団との会見に臨んだ。保利が帰り際にいった言葉を、そのまま結論として会見の席で発表した。記者団の中からは
「すると結局は保利・中曽根会談、決裂ですな」
という声があがった。中曽根は
「決裂、というのはオーバーかも知れませんよ。私は何度も保利さんと会うつもりだ」
と答えた。
保利との会談で中曽根はある種の心証を得た。
ー保利は公式には挙党協の視点に立って反三木の強硬論を吐いているが、その実、両院議員総会で三木総裁の不信任、解任を決議するのを押しとどめた。また今はっきりと自分に、党分裂は避けなければならないといった。
ー表と裏……がある。
中曽根はその辺りに思慮を巡らせた。
ーそうだ。保利は計算している。もちろん保利の理想は反主流の人たちと同じく、臨時国会前に三木を退陣させることだ。しかし意外に三木は強い。折れない。そこで保利は算盤を弾いた…… 双方が押し合いのまま突っ張っていれば、福田派の中にも 大平派の中にも 分派的な行動が生じてきて、三木おろしの歩調が乱れることは避けられない。

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また仮にその歩調が乱れないとして、三木おろしが刻々と具体的になれば、今度は後継を巡って福田か大平かの対立が生じてくる。そうなれば三木おろしは不可能になる……その行きつくところを保利は読んだのだ。少なくともある段階で、三木退陣の言質を取った上で妥協をし、兵を引くことが賢明だ。それで党分裂も回避できる……保利はそう計算したに違いない。
中曽根は保利との会談によって 事態収拾の自信をさらに強めた。

中曽根幹事長をはじめ党五役と挙党協側の代表 保利茂、鈴木善幸、園田直、江崎真澄、長谷川四郎の五人が自民党本部の総裁室で顔を揃えたのは、9月2日午後1時であった。この部屋に入る前に石田博英幹事長代理が
「長丁場の勝負になるな。行きつくところまで行かなければ打開はできんだろう」
と半ば諦め、半ば悟ったような口調で中曽根に洩らした。
「たぶんね……」
と返事をしながら、中曽根は保利のいった
ーこの後……何幕かある。
という言葉を思い出していた。会談の席に着く時、中曽根はその保利に軽く目礼をした。
五役収拾案についての中曽根の説明に対して、挙党協側はまず筋論で応酬した。

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「五役調整の中に本来、椎名副総裁が入るべきなのに加わっていないのは奇妙だ。椎名さんは意見が違うのかも知れないが、副総裁が入らない調整というのでは慣例からいっても意味がない」
江崎が理屈をこねた。それに対して灘尾総務会長がこう答えた。
「私には副総裁の考えがわかっているので、こと改めて相談しなくてもよろしい、と幹事長にいったのだ。副総裁が必ずしも反対ではないとわかったので収拾案を作った。内々に連絡もしている。むしろ私が副総裁に対しては、あんたは加わらないほうがいいのではないかともいったのだ。副総裁も、そうかも知れんということだった」
鈴木も収拾案の内容には触れずにこういった。
「五役とわれわれ挙党協代表というのではなく、党議に参加した約270人と五役、それに総裁との間で調整すべきではないのか」
これを承けて長谷川も
「いま両院議員総会が有効だったか無効だったかの意見もある。しかし保利さんが幹事長だった時代には中曽根、園田君たちは攻撃する側に立っていた。そのとき両院議員総会や代議士会を開いたが保利さんはそこに顔を出した。そうすれば有効か無効かという議論にはならなかったのではないか」

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と、執行部の姿勢を問題にした。中曽根はそうした筋論を無視した。
「われわれが示したのは調停案ではなく収拾案だ。三木首相、福田副総理、大平蔵相の考え方や見解を採用して、さらに挙党協の意向、党内の空気をくんで五役で苦労してまとめたものだ」
これに対して保利が、殊更に語気を強めてこういった。
「そんなことはない。福田副総理は1日にわざわざ僕のところを訪ねてきた。五役収拾案には福田、大平両氏の考えは全然入っていない。約270人の意見も入っていないということだ」
この保利の強硬な発言にのって江崎までが語気を強めた。
「三木首相は福田、大平両氏、両院議員総会、挙党協の意見も聞かないで、五役収拾案にそって今どんどん人事の刷新を進めようとしている様子だ。これは納得できない」
中曽根は釈明した。
「挙党協側の意向を殊更に無視して人事刷新を進める気はない。総務会でもこの収拾案について説明をし、出来れば諒承してもらいたかった。もちろん形の上では総務会の諒承を得てから実行していくつもりだ」
「君はそういうことをいうが、今日から首相官邸にテント村ができるなどという噂が私の耳にも入っている」

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保利がいきり立つようにいった。
「そう報じられたかも知れないとしても、実際にはテント村などできませんでしたよ」
その松野政調会長の発言を無視したように保利は喋った。
「総理は本当に党や国を愛しているのかどうか。党の危機を考えれば裸になって話し合うべきじゃないのか。なあ石田君……」
保利は三木派の石田博英幹事長代理に眼をやった。
「君が奮闘して作った石橋湛山内閣は、総裁公選で岸信介氏に七票の差で勝って成立したものだ。そのような激烈な闘いを演じながらも、石橋内閣が成立すると全党員がそれでまとまった。石橋内閣の後をうけた岸内閣当時も日米新安保の危局を乗り切った。こうした歴史から見て党がまとまらないはずはない。然るに今はどうして意見がまとまらないのか」
その原因は三木にある。三木が辞めるといいさえすれば党はまとまるのだー 保利はそう言外に含めていった。それを江崎がストレートに口にした。
「今の三木内閣は責任をとるべきだ。ライシャワー元駐日米大使が襲われた時にも浅沼元社会党委員長が刺殺された事件の時にも、国家公安委員長が引責辞任をしている。

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その意味で今度のロッキード事件が内閣、党全体の問題とすれば、総理総裁は辞職するのが当然ではないか。三木首相はことごとに自分は議会の子といいながら、責任は常に不明確だ。それに今日では全議員の三分の二が総裁不信に陥っている。内閣はこのさい総辞職すべきなんだ」
中曽根は憮然たる表情でこの江崎の意見を無視して
「とにかくこの五役収拾案を理解してもらえないものだろうか。われわれは身を賭して収拾にあたっている」
と頭を下げた。それを保利は、まあまあというように手で制して
「君たちが辞めればいいというもんじゃない。まず収拾の責任を果たすように全力を尽くすことだ」
といった。しかし その後の話し合いも双方が歩み寄ることはなかった。結論が出ないまま
「今日は五役の皆さんの努力を多として意見を聞きおく……ということにしておきたい」
保利がそういったのをしおに 会談は終わった。

日が経つにつれて、それまで事態収拾のために低姿勢を取り続けてきた中曽根康弘幹事長も、さすがにじりじりと焦れてきた。
五役が拵えた収拾案を頭から拒否して一顧も与えようとしない挙党協への憤懣も胸の中に燃え始めていた。

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