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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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ただ中曽根は財政の引き締めを行うだけではなかった。例えば田中角栄が始めた党三役と経済同友会との朝食会。中曽根はこれを経団連、日経連、商工会議所を加えたオール財界との会合に発展させたのである。三木内閣に対する冷淡な視線を取り払うのが眼目だったが、同時に「中曽根幹事長」を財界代表にアピールする場にもなったのだった。

中曽根は一見冷たい印象を与えるのだが、案外気配りの出来る政治家だった。俳句を詠み シャンソンなど口ずさむ上品なイメージの半面、安っぽいバーで酒をあおったりするのも好きだったようだ。
中曽根は幹事長として地方に出張する際、必ずと言っていいほど他派の若手議員を誘った。一緒に旅をすれば気心も知れる。こうしてコツコツと人脈作りに精を出していた。そしてそれは見事に役立ったようだ。後の中曽根内閣発足時の閣僚名簿には、この時期旅行に誘っていた他派閥の人名が多く見られたのである。

「青年将校」以上に有名な中曽根のニ ックネームが「政界の風見鶏」。確かに中曽根は派閥力学を読むのに長けた政治家だったし、その時々の “風向き” が有利に作用することも多かった。

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だが民主党― 改進党― 日本民主党を歩き、河野一郎に従った少数派閥出身者でありながら総理に登りつめ、さらに長期政権を築けた最大の理由は、中曽根が人の話をよく聞いて、良いと感じたことは政策などにどんどん取り入れる柔軟性を持っていたことだろう。 “風見鶏” ほどに柔軟な対応ができる人柄だったともいえる。
一例を挙げれば住宅金融公庫。私などがマイホームを建てようと考えていた50年頃、公庫融資は抽選制だった。住宅需要は常にありながら みな資金繰りに苦労していたのである。党も住宅問題に前向きに取り組んだが、そのきっかけを作ったのが中曽根だった。
ある時、中曽根の提唱で党の中堅や若手職員が集められ「マイホーム作りの苦労話や希望を聞く会」が持たれた。公式の会合ではないこともあって、みんな家を建てようとする時の厳しい現実を赤裸々に語ったものだ。党政調会住宅問題調査会の会長である渡辺栄一議員の顔もあった。調査会で公庫融資枠を大幅に拡充するという政策が決定されたのは、この会合があってしばらく後のことだった。
政策立案能力の柔軟性を示すエピソードはまだある。

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例えば今でこそ自分のホームページを開設して国会報告を行ったりする国会議員がふえているが、昭和の時代にそんなインフラはなかった。中曽根が目をつけたのが、当時としては不特定多数に対する最先端の情報伝達手段であったテレホンサービス。これを活用して積極的な情報発信を行っていたのである。指定された番号に電話すれば、本人が録音したメッセージが聞ける仕組みだ。
ところがこれでフライングを犯したことがある。51年4月頃だったと思う。幹事長としての苦労話を報告した時、国会対策上のある懸案事項に関して野党と裏で話がついているかのような表現をしてしまった。これが共産党の『赤旗』に抜かれて大問題になったのだ。当然のごとく国会で取り上げられ、中曽根は前尾繁三郎衆院議長に陳謝する羽目になった。中曽根らしいそそっかしさともいえようが。

50年8月3日、三木総理訪米団の一行がワシントンに到着した。私はこの訪米団に随行していた。「新しいことをどんどん取り入れる」方針の中曽根が「総理の外遊などには党職員も同行させて “外の空気” に触れさせるべきだ」と提案、その栄誉ある第一号が私だったというわけだ。

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現地では 総理のほか公式随行員が迎賓館、私を含め非公式の随行員はヘイアダムスホテル、随行記者団はワシントンホテルに分宿し、それぞれのホテルには日本大使館の連絡室が設けられていた。
その晩、連絡室で翌日の日程確認をし、一日遅れの日本の新聞に目を通した後、自室に戻ってさあ寝ようかという時だった。すでに午前1時は回っていたと思う。突然、部屋の電話が鳴った。東京からの国際電話、自民党幹事長室職員 岡田史一君だった。
「NHKニュースで、日本赤軍らしい者が クアラルンプールの米国大使館に人質を取って立て籠もっていると放送しています。そちらの皆さんはもうご存知だとは思いましたが、念のために電話しました」
三木総理は明後日、フォード米大統領と会談予定。日本赤軍が米国大使館を占拠したとなると一大事である。私のところに連絡があったぐらいだから、当然すでに総理の耳に入っているだろうと思ったのだが、これも「念のため」迎賓館の海部俊樹官房副長官に電話を入れてみた。眠そうな声で受話器を取った海部は、あにはからんや、まだ事態をまったく認知しておらず、大変な慌てようであった。

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大使館連絡室、随行記者団……連絡してみると、みな「初耳」である。一時間ほどすると連絡室から「ご一報 ありがとうございました」という電話がかかって来た。
与党の事務方で初めての外遊随行だったが “お飾り” にとどまらず、何となく役には立ったかなという気分で改めてベッドに入った。総理をはじめ海部副長官、駐米大使、大使館員そして記者団はそれこそ徹夜の大騒ぎだったようだ。
後ではっきりするが、やはり幹事長室からの電話が正真正銘の「第一報」であった。どこで情報を仕入れたのかと次々に聞かれたが「自民党幹事長室は 何かあればすぐに私のところに連絡が来ることになっているから」とニコリともせずに答えたものだ。内心 得意満面、鼻高々だったことは言うまでもない。外遊中 この一件以降、外務省高官や大使館員の私に対する態度は一変し、大変丁寧かつ親切なものになった。当時のメモには「持つべきものは、わが幹事長室の同士なり」とある。
それにしても、である。本国のテレビニュースで報じられている国際的な大事件が、外遊中とはいえ総理一行になかなか伝わらないとは。当時の危機管理とは この程度のものだったのである。

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年があけて昭和50年1月8日、私は大平に会いに行った。
「予算案のメドはつきましたか」
「財源は1000億から1500億ほど握っている。公表財源は500億だ」
大平がそういったので私は一応安心した。大平は
「三木は来年4月、解散しようとするかもしれない。が 出来ないだろう。だんだん政権が遠くなる」
といった。
大平の言葉には実感がこもっていた。私も同感なのでどう答えたらいいか判らない。急に田中角栄のことを思い出し
「角さんは同志のうち30名ぐらいは大平に引き受けてもらいたいらしい」
というと、大平は
「去年の暮れ田中とは会った。人は頼りにしたくないものだ。応分のことはさせてもらう」
と気のない返事をしながら
「時々おれは怒りだしてしまうのだ」
と正直に心境を述べた。
大平には強さがなくなっていた。「最後はあれ(田中)がやってくれるだろう」という大平の期待は完全に裏切られ、逆に田中の世話をしなければならぬのか という思いだ。この頃の大平は 後から考えると一番苦しかった時期だったろう。
苦しくなればなるほど大平は無口になり、無口になればなるほど現在の仕事に没頭して すべてを忘れようとする。

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これが大平の型だ。
島記者はこういう大平を見て
「今のままなら次回も総理総裁にはなれない。無理だ。今後も大平は大蔵省にこもりきって大蔵行政に固まってしまう。外相の時と同じではないか」「どうしても大平がこの姿勢を変えないのなら、大平を天皇に祭り上げ、補佐の態勢を固めねばならぬ」
と慨嘆した。これは鈴木善幸の考えをそのまま述べたものだ。

2月に入ると町中では「つぶれた」「つぶれた」という声を聞くことが多くなった。大企業は持ちこたえているが、中小企業は苦しいのだ。

3月4日、昭和50年度本予算案が衆院を通過した。この日、私が宏池会の下村勉強会に出ると、不動産研究所所長の櫛田光男が私に声をかけてきた。
「大平の勢いが消え、影が薄くなってきた。大平はボケてきたのじゃないか。伊藤さん、あなたの出番はないのか。私はもう判らなくなった」
といった。池田元総理の知己の一人で、大平にも好意的な櫛田の思いが心にしみてきた。私は答弁のしようがない。
「私はただ池田との関わり合いで働いているだけです」
「さもあろう、さもあろう」
櫛田は感に堪えぬようにそういった。

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池田に思いを寄せ、ひそかに大平に期待をかけていた人がそう思うのか、と私は感じた。櫛田はこの年の11月15日に逝去している。何かがきっと「そういわせたのだろう」と、後から思い当たった。
翌日、瀬田で大平と会った。
「もういやになった。力のない三木総理を見ていると、いよいよ総理などになりたくない。本でも読んでのんびりしたい」
と嘆く。
「財政の方はどうですか」
「難しいところへきている。これだけ景気が冷えこんでしまっては」
「赤字国債を発行するしかないじゃないですか」
「三木、福田、椎名などを相手にするのがいやになった。この連中は財政が判らない。だからおれは発言しないのだ。国会答弁も最小限度にしている」
大平はこういって、別れ際に
「時々来てくれ。今度来た時は大蔵大臣をやめているかもしれない」
と冗談とも本気ともつかぬことをいった。
「田中角栄も頼りにならない、三木も椎名も福田も頼りにならない。あなたは今 何も頼りにするものがない。だから空しいのだ。今はただ日々の仕事に努力する、ということを頼りにするしかない。そのうちあなたの疲労感が充実感に変わるだろう」
私はそういって帰った。

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3月8日にまた大平と会ったら
「おれのやった予算案は風化してしまった」
という。私にはこの意味がよく判らなかった。10日すぎに主税局の友人に会うと
「税収不足がはっきりしてきて、見積もりの責任を問われ、大臣か次官はやめねばならないかもしれない」
といった。大平の苦境が私には手にとるように判ってきた。「なるほど。これが国会の質問で取り上げられれば、大平は一巻の終わりだ」。私は薄氷を踏む思いだった。
4月2日、昭和50年度の20兆円予算案が成立した。

この頃、大平と池田家の間に一種のモヤモヤがあり、池田夫人と大平との間に緊張状態が生まれていた。私はぼんやりしていて人にいわれるまで知らないでいたのだ。
4月下旬のある日、大蔵省の玄関を入ろうとすると事務次官の高木文雄とばったり出会った。高木は「池田行彦君の出馬問題が再燃している。おれの代わりに調整をしてほしい。大臣と池田夫人との間がよくない」といった。高木次官は近藤道生とともに行彦ら若夫婦の媒酌人だ。私は初めて事態の悪化を知り「困ったな」と思った。
広島二区は池田元総理を生んだ名誉ある選挙区だ。

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池田の死後、あいにく池田家に男子がなく、一時、議席は空席となっていた。選挙区では池田元総理の有力な後援者だった増岡一家が池田夫人の了承を得て、増岡博之を立候補させた。当選した増岡は事実上、池田元総理の跡を継いだ形となった。そこへ新たに池田の後継者として池田行彦が名乗りをあげようというのだ。当然、増岡との間に火花が散る。大平は宏池会の同志 増岡代議士に泣きつかれ、池田家との間の板ばさみとなって立ち往生をしてしまう。
「行彦君は立候補しないでほしい。できれば衆院でなく参院に回ってほしい」というのが大平の本音だった。増岡に対する情と池田家に対する義理を考えると、いても立ってもいられない。秘書官として毎日大平と顔を合わせる行彦の方もたまらないだろう。
私は結局、池田家には悪者になって憎まれ役を買い、事態が進むうちに「出馬やむなし」と決まるしかないと判断した。
5月中旬、瀬田の私邸で大平に
「行彦君の出馬は止められないと思う」
というと
「君は広島にいって池田夫人と会ったのじゃなかったか」
と聞き返した。私の慰留工作に〈大平は期待していたのか。悪いことをしたな〉と思った。

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