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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

333

最後に三木が 中曽根の指名で発言した。
「今の時代は 党に対する信頼の回復が最も大事だ。政治資金規正法の改正、総裁公選規定の改正……これらについては僕には私案ができている。この席で副総裁の要望があれば出してもよい。ともかく政治姿勢の問題を一番先に考えたい。新総裁には……誰がなるとしても 僕はそれを望んでいる」
このあと政策についての意見交換が終わったところで 大平が
「党近代化、インフレ克服、社会的公正の実現など いずれも合意できるものだ。ひとつ五者会談の結論として 全員賛成の形で三項目を合意事項にまとめましょうや」
そう提案した。誰も異論はなかった。
午後になると 福田が奇妙な発言をした。
「ここに田中派代表として 西村英一君を加えたらどうだろう」
田中首相が引退意思を表明した― とはいいながら 田中派は依然 党内最大の派閥である。その代表が後継者について話し合う会談に加わっていないのは 不公平であった。
田中派は明らかに大平支持であるにもかかわらず 福田がそういったのは
― 椎名裁定が福田後継と決まった場合、田中派代表がいなければ 後で「われわれの関知しないことだ」といわれかねない。

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まずいことになる。
と計算したからであった。福田の提言に対して椎名は
「ああ そうか、なるほど」といった。そういいながら とぼけて話題を変えてしまった。
― 椎名裁定については 後でわしが西村、二階堂、金丸君、角さんと話す。さっぱりと諒解してくれるはずだ。
そう考えていたのだ。
議題は今後の党のあり方に移っていった。具体的な話し合いが行われて それについても五者会談としての申し合わせが作られた。
延々四時間半にわたる会談の結果 政策、政治姿勢については
「党の再出発と挙党体制の確立、インフレ克服と経済安定、社会的公正の確保の三点を新総裁は実行すること」
という約束が交わされた。
このうち挙党体制の確立については
「新総裁は (一)全党的人事を党・内閣について行う。特に幹事長、財務委員長、経理局長は原則として総裁派からは出さない(総幹一致→総幹分離)。(二)人事は党員の貢献度を計り 党員の励みになることを考える。(三)総務会の構成と運用の現状を再検討し 改革を行う。(四)政策の調査立法機能を強化する。(五)党の外部組織を強化する」
ことが申し合わせとして決定をみた。

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椎名は
「どうかね、こうしてとことんまで話し合って決めていこうじゃないか」といった。大平は焦れていたものの 他の三人が賛成したのでうなずいた。椎名は
「では ご面倒だが、時局柄 明日の日曜も お集まり願いたい」と提案した。みな賛成したものの 大平は
「いつまで話し合いを続けるか……期限を切ったら どんなものです?」
といい始めた。椎名は
「期限を切っては徹底的に話し合ったことにはならんじゃないかね。とにかく可及的速やかに……ということにしようや」
例によって曖昧模糊としたことをいった。調整役の副総裁にそういわれては 大平もやむをえないという表情だった。

「今日の五者会談は それだけで終わったわけですか?」
記者たちは 五者会談スポークスマンとして記者クラブに現れた中曽根通産相に不満げに 疑わしげに質問した。
「具体的に誰が後継者といった名前は出なかったんですか?」と切り込む記者もいた。
「そこまでは行きませんでした」
「で 話し合いで決めること……これについては大平さんも同意したのですか?」
「そうねえ、必ずしも話し合いで決めることに一致したわけじゃない。できるだけ話し合いでいこうということです」

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「いつまでというタイムリミットは?」
「そのタイムリミットという表現はよくないが、まあいつまで話し合うかということについても 意見はまとまっていません。ともかく話し合いの努力を続けて行こうということです」
この記者会見が行われたのは午後5時過ぎであった。その時間、椎名は党本部に田中派 七日会会長の西村英一を招いた。諒解を得るためであった。
椎名から経過を聞かされた西村は
― 明日は五者会談で結論が出るのか?
― 出る……として どんな結論が?
首をひねりながら砂防会館の田中事務所に戻って二階堂進、金丸信と会い、さらにその夜 これに竹下登、亀岡高夫たちを迎え ホテルニューオータニに集まった。
「椎名暫定……という目は もうないように思う」
「では保利か?」
「しかし大平、福田、三木とも暫定反対だ。まとまるまい」
「結局 公選に戻るのか……」
そのように情勢分析した。田中派は政局の圏外にいた。田中自らが「我執を捨て」といって意見を吐かず、二階堂は「喪中だ」といい行司役を断った。金丸、竹下は党の混乱を収拾することを第一義としていた。

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― 公選になったとしても大平には行かないかも知れない。このさい大平は無理をしてはならない。
という認識もあった。
いきおい この30日夜の田中派首脳会議は「公選強行」「大平支持」という話はほとんど出ずじまいだった。田中派が動かない以上、公選気運も 大平必勝の雰囲気も盛り上がるはずはない。そこに大平にとって大きなマイナスがあり、また椎名が裁定を下しやすい条件ができたのだ。
そうした田中派の中で 木村武雄だけが椎名を中心に各派首脳の間を往来していた。この夜も木村は広尾の椎名邸に姿をあらわした。
「どうするのかね。明日 ばっさりと決めるかな。もう時間もないことだしな」
木村は遠慮会釈なく椎名に尋ねた。もっとも木村は
― 椎名暫定に決めるのか。
という予測に立って そう訊いたのだ。
「そうさな。わしは 三木君にしようと思っとる」
平然として椎名は打ち明けた。
「えっ!?」と木村は一瞬 息をのんだ。党内の派閥常識からいえば大平、福田と比較して
― 最も総裁の椅子から遠い距離にある。それもそこまで手の届かない圏外の存在。
そのように思われ 信じ込まれていた三木の名が 現実に椎名の口から飛び出したからだ。

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が 木村も政党生活は長い。椎名が三木を選んだ理由を感得した。
「いいじゃないか」
「しかし まだ極秘だぞ、木村君。こと露れるのは失敗のもと……だ」
だが この言葉とはうらはらに 椎名は木村の口から
― わしの裁定内容が 明日の朝までに少数の人の間にじわじわと流れて行く……
ことを期待していた。
― 大平の耳には届くまいが三木、福田両派幹部の耳には入る。どんな反応が出てくるか。しかし わしのこれまでの布石が利いていれば福田はしぶしぶながらでも わしの裁定― 三木推挙に従うはずだ。
― それで明日の五者会談の地ならしができる。成功の確率が高まるというものだ。
そうした読みが椎名にはあった。
椎名は木村が去った後、中曽根に電話をした。
「明日……一気にことを決しようと思う」
「できますか?」
「できる。君の助力があれば……な」
「で、裁定の内容は?」
「これは極秘だよ。三木……にしようと思う。君の行司役が大事だ。三木と相談してくれ」
「わかりました」
中曽根は簡潔にそういった。
「わしも君のことは わかっとる」と椎名はいった。
― 三木総裁の下で中曽根幹事長……そのようにする。
という意をこめての言葉だった。

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次に椎名が電話をかけたのは椎名調査会の副会長 根本龍太郎である。
「三木君にな、自重するよういっといてくれや」
その椎名の言葉で 根本も裁定は三木と察した。
「福田君には……君の意見として とにかく党の混乱を回避し 一本化することを望む、今日の五者会談の申し合わせを尊重するように、といっといてくれ。椎名の爺もな、福田君のことを一番気にしとるぞ……といっておいてくれたまえ」
根本は椎名との電話を終わると すぐ三木邸に電話をかけようとした。それより早く電話のベルが鳴った。三木であった。
「根本君……椎名さんの労を多としている。だが風が強い。老齢のことだから ふらつかないように 君が支えるように頼むよ」
根本はこの三木の言葉と声音から
― 椎名裁定は三木総裁……それをどこからかキャッチしたな。
と感じた。
実はこの時 十分ほど前に、中曽根と三木とは電話で話し合っていたのだ。
「椎名さんが裁定を下しましたよ……後の運びは私に委せて下さい」
と中曽根が申し入れた。三木は
「よろしく頼む」と答えていた。
根本は次に福田に連絡をとった。電話で裁定のなかみには触れずに 椎名の意のあるところを伝えた。

340

「よく承知しているよ」という福田の返事だった。
この夜 そう遅くない時間、福田のところに坊秀男が飛んできて
「どうやら三木らしい……」という情報をもたらした。福田は彼の癖で 軽く膝を叩きながら
「そうかね……」と答えた。
― あり得まい。おれだ……。
という確信が まだまだ福田にはあった。坊が
「椎名裁定、潰しますか?」といった。
「やめたがいい」
福田はそういった。やはり自信に支えられていた。それに椎名裁定の内容が果たして三木かどうか、正確につかめないうちに軽挙妄動してはなるまいという判断があった。これは一つには官僚らしい慎重な配慮からだった。もう一つには 話し合いを主張し 椎名裁定に服するという約束に反しては、後々かえってまずく 自分の目がなくなるという計算からだった。
三木ではないか― という話は噂として大平派にも当然 流れてきた。大平は完全に無視した。
― 今日の五者会談……話し合いで決めるということも 期限を切るということも 何一つ意見が一致しなかった。これで明日 椎名裁定が下せるわけはないし、またそれで話がまとまるわけはない。
そう信じていたからである。

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鈴木善幸、佐々木義武、田沢吉郎たち側近に
「話し合い……幽霊みたいなものだ。それがぶらぶらと歩いているだけじゃァないか。現実の結論になるはずはあるまい」と微かに笑った。しかしなぜか大平自身 心理的に冴えないものがあることを自ら感じていた。
それでも大平側近はその夜 公選大会に混乱がないように、また大平支持を求めるために各派の知己を頼って運動に奔った。

12月1日の朝が明けたとき― やはり福田の脳裏には「椎名裁定は三木?」ということが 疑問符付きながらも重苦しくわだかまっていた。昨夜 坊の後から三、四人の人が同じような情報をもってきていた。
― やはりそうか。田中を倒して大平と対決。大角を相手に四つに組んでいるうちに 三木君に漁夫の利を占められた……というわけか。両成敗だ……。
がっくりと全身から力が抜けて行く、そんな無重力感があった。だが福田も政治家だった。
― 話し合いを主張してきたおれが いまさら椎名裁定には反対とはいえない。田中が退き政権が大平に渡らなかったこと、それに三福連合ができていること……その立場からすれば 三木でよかったといえるかも知れん。

342

― それに おれが天下を取ったとしても 田中の怨念が凝って 後々やって行けたかどうか……。
自らをそう納得させながら私邸の玄関を出た。待ち受けていた記者団が寄ってきた。
「今日の会談、どういう見通しです?」
「どうもMらしいな」
淡々と答えはしたものの 落胆のかげは覆うべくもなかった。
一方の大平は なお気負っているものがあった。中堅の田中六助、服部安司たちは 五者会談決裂、公選へ― を想定しつつ 大平を送り出した。
午前10時半― 昨日に引き続いて五者会談が 党本部総裁室で開かれた。それぞれの顔を見やりながら 中曽根が司会役として口を切った。
「では これから会議を再開致します。椎名副総裁から まずご発言を……」
椎名は内ポケットの中に がさごそと手を入れながら
「昨日、新総裁の行うべき事項について申し合わせができた。原則、基本方針の議論はもう必要はない。私に裁定させていただく」といった。
取り出した用箋を広げた。福田が立ち上がってドアを開き 外にいる秘書に
「おーい、メモ用紙と鉛筆だ」と命じた。三木、中曽根もポケットからメモ帳とペンを出した。大平だけが じっと動かなかった。

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