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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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他の人でも適任者がいれば結構じゃありませんか。もっとも要求する全てを満たす人などはおらんでしょうから六、七割を満たせる人を見出す努力をすべきでしょう。五人で二日でも三日でも 徹底的に話し合いましょうや……」
このとき中曽根が総裁候補を四人に限る必要がないといったのは
― 四人のうちの誰かで纏まらなければ やはり椎名暫定総裁、或は保利暫定総裁。
といった伏線であった。椎名は
― まずくすると そういうことになるかも知れんな。
あれこれ考えながら この午後、大平正芳、福田赳夫の順で個別の会談をもった。大平に向かって椎名は例のとぼけた口調で
「状況如何では来年夏ぐらいまで暫定政権で行く……という考え方はどうかねぇ」ときいた。
もちろん大平の「ノー」という回答を予測してのことである。大平は言下に
「そのような期間を半年も作るのはよくないと思いますな」と反対した。椎名は
「すると……今 本格的な総裁を決定する……ということになる。そういうことかね?」と質問を放った。
「当然です」と大平は答えた。椎名は「その方法は?」と尋ねた。
「話し合いをすることはよいが最終的には総裁公選で選出すればいいでしょう」

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― どうせ話し合いでは決まりはしない。公選に落ち着く。
と読んで大平はそういった。事実、大平派は この日
「いつまでも話し合いに時間をかけていては政治的空白が生ずる。重大時局に際して好ましいことではない。早急に党大会を招集し 選挙によって総裁を選出すべきである」と既定方針の公選を再確認していた。それに基づいて賛成者の署名運動に取りかかり始めた。これに応じて田中派の世話人会も一応は「公選による選出」を申し合わせた。しかし椎名はこの大平との会談で 大平にある枷を嵌めたのである。つまり大平は
― 暫定総裁には反対。
― 総裁公選を行う。
― それによって本格的総裁を選出する。
と三つのことを主張した。だが話し合いによって大平以外の余人に本格的な総裁が決まった場合、大平はもう
「その人物には賛成しかねる。そのくらいなら暫定政権を作れ」とはいえないことになった。また大平が
「納得できない。公選を行なえ」といっても「君の主張していた通り本格的総裁が決まった以上、何の公選の必要があるのだ。単に公選と話し合いと 方法が違っただけの話ではないか」という論法で椎名が逆手をとれば 大平はもはや反論できない。

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椎名は密かに
― これで大平君に手枷 足枷を科した。もうじたばたはできまい。
と にんまり笑った。
最後に呼んだ福田に 椎名は五者会談で結論を出したいと話した。福田は
「結構だよ。公選や暫定ではなく 話し合いに徹して真の総裁を選ぶことだ」と 一も二もなく賛成した。しかし椎名は
「だがねえ……」と福田にだめ押しした。
「話し合いで後継者は誰……と決めた場合 君が……いや 君だけじゃなく他の三人が異議を唱えては困るよ。所詮 話し合いは実らんことになる。暫定政権か公選になっちまう」
「暫定にも公選にも賛成はできない」
と福田は繰り返すような形でそういった。
「となると君は話し合いの結果 誰に決まってもそれを認める……というわけだね」
椎名は確認した。福田は
― この五者会談に顧問会議や長老たちの意見が加算 反映されれば、おれが選出されることで話し合いはまとまる。
という計算だった。
「もちろん僕は……認める。むしろ他の連中もそうするように 副総裁はよく諒解を取りつけておいてもらいたい」
これで実は福田も
― 福田以外の人物に決まってもノーとはいえない。
という椎名の枷に嵌められたのである。

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そのあと椎名は改めて自派の浜野清吾、田中派の木村武雄を三木、中曽根の下に走らせていた。
「五者会談で話し合った上 椎名が裁定を下した場合、異議 反対を唱えるか、これに服するか?」
そのだめ押しを試みさせたのである。三木、中曽根ともに
「たとえいかなる内容の裁定でも異議 反対は唱えない」という回答であった。
夕刻になって椎名はさらに 三木と中曽根に電話連絡をとった。電話を通じて椎名はもう一度 最後のだめ押しにかかったのだ。三木、中曽根ともに
「裁定の内容がどうあろうと 私は支持しますよ」ときっぱりいい切った。
この時点では中曽根はまだ
― これは椎名暫定、保利暫定でも異議はないか……というだめ押しかな?
ふと そんなことを考えた。
椎名は福田に対しては同派の坊秀男、三井観光社長の萩原吉太郎を煩わせて その辺を打診させた。
「異議なく裁定に従う」という福田の返事がもたらされていた。
こうして四実力者のうち福田、三木、中曽根の三人から 椎名は念に念を入れて「椎名裁定に賛同する」という言質を取り付けたわけである。

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四人の実力者との個別会談を終わった夜、椎名は自派の山村新治郎、秘書たちと食事した。山村が
「副総裁、五者会談……結論は出せますかね」ときくと
「まあ 落ち着くところに落ち着くだろうさ」
椎名は呑気なことをいった。秘書たちは
「大平、福田どちらに決めても後が大変だ」
「暫定になりはせんか」
「公選論が勢いを盛り返すんではないか」
勝手な議論を椎名の前で展開した。それを椎名は にこにこしながら聞いていた。山村は ふっと
― これは親父の肚は もう決まっているんじゃないか。
と思った。
確かに椎名の肚は決まっていた。
― 三木武夫。
椎名はその晩飯が終わったあと私邸の書斎兼寝室に引きこもった。椎名は過去のあれこれ、今日行われた実力者との会談を通じて福田、大平、三木たちの人間、理念そして現在の党情……を精細に心中で繰り返し検討した。
― どう考えても今は三木武夫以外にはない。
もっとも初めから椎名の念頭には福田赳夫はなかった。岸信介派解体の後、戦前岸派は川島正次郎、赤城宗徳、椎名グループにまとまったのに対して、福田は党風刷新連盟という別派を立てた。川島―椎名派と福田派の間には積年の対立があって溶けていない。

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そうした過去の経緯はとにかくとして、椎名の眼に映る福田その人は
― 参院選敗北のあと党の危機、経済の危局を捨てて蔵相を辞任した。それも所詮 反田中の派閥感情から出たのではなかったか。
― 金脈問題で田中攻撃をした あざとさが承服できん。
― それに脱党 新党も辞せずとか、政権担当の用意があるとか露骨過ぎる行動が目立つ。
― 仮に福田を選ぶとなれば 田中派は完全な反主流派になる。大平も同様だ。これでは党再建、経済政策どころか政局は混乱、紛糾その極に達しよう。
といって椎名はまた 大平にも食指を動かしてはいなかった。椎名自身、大平とはそう接触もなく距離も遠い。
― 大平には どこまでの政治力があるのだろうか。
― それはわしの不勉強としても もし大平を選べば田中派は支援するとして 福田はまたまた猛烈な反撃に出よう。三木も与しないことは明らかだ。下手をすれば分裂だ、新党だという騒動になりかねない……。
椎名は脳裏に描かれた実力者四人のうちから大平と福田を消した。
― 中曽根康弘……まだ若い。将来がある。
椎名の消去法で最後にリストに残ったのは三木武夫であった。もちろんただ単純な消去法で三木を選んだわけではない。

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椎名は副総理辞任以来の三木を評価しはじめていた。
― あの時は徳島戦争の恨みで重大時局も顧みずにそのポストを降りるとは と思った。
― しかしその後、三木は政権欲抜きで来ている。党の改革、近代化に ひたむきで進む姿勢だった。これはやはり議会生活三十年の党人……本物なのかも知れん。
椎名は修正した三木観に基づいて
― こういう時代……党の近代化、イメージ・チェンジの必要の際、党内派閥抗争、対立を超克するため……三木君が新総裁として もっとも適切だ。
そういう裁定を密かに下したのである。

椎名副総裁と四実力者の個別会談を経て― 舞台は30日午前10時から自民党本部での五者会談に移った。
実をいえば ここに至るまでの運びの中にも椎名の巧妙な戦術があった。
椎名は顧問会議、四実力者との個別会談などで ここまで時間をかけてきた。
この30日に至ると党内には
「ぐずぐずしていると臨時国会を開いて補正予算を成立させるのが間に合わんじゃないか」
「早いところ後継者を決めろ」
「椎名は何をもたついているのか」
そんな声が騒然と起こり始めていた。そうした “時間切れ” までに追い込んできたのが 椎名の策ならざる策だった。

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― タイムリミットが迫れば 時間的にはもちろん 党内事情、党内心理も せっぱ詰まってくる。
― その段階に至れば五者会談で わしが下した裁定に対して誰もが もう反対はできない。反対して潰せば臨時国会、補正予算を潰す責任を負わなければならない。わしの裁定に不満、反対はあっても潰すことはできないはずだ……。
いいかえれば椎名は 時間切れ寸前のところで一気呵成に裁定を下して決してしまおう― という肚だったのである。
その30日午前10時、椎名は記者団に囲まれながら総裁室に入った。
「五者会談でね、わしが推されれば、わしが総裁になるよ」と とぼけた。
「もちろん冗談さ。冗談で お前やれといわれて 断る奴はおらんだろう……」
椎名と大平、福田、三木、中曽根が揃ったところで新聞社のカメラマンがフラッシュを焚き テレビのライトが煌々と灯り カメラが回された。
この場面では五人とも和気あいあいの雰囲気で雑談を交わした。
扉が閉ざされたところで― 五者会談は始まった。まず椎名が
「総裁そのものの人選を……この五者会談で行いたいが 候補はわしを除いた四人の皆さんだ。話の進行、司会役は中曽根君にお願いしたい」

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中曽根は椎名たち四人を見やりながら このようにいった。
「この四人以外にも人材はいるので 四人に絞るのは僭越という批評も受けましょう」
この発言は 四人以外の暫定総裁を考慮したものであったことは いうまでもない。皆がうなずいた。
「そこで他の人材も含めて話し合いたいと思います。ただし ここで後継者が誰に決まっても その人物に対して異議なく協力して挙党一致体制を作ること……これを約束することが まず大切でしょう。いかがなものですか」
「異議はない」
三木も福田も同意した。大平は
― どうせ決まらんだろう。
と思いつつ うなずいた。
「それでは異議ないと認めまして……政策の論議に入ります。これについてのご意見をどうぞ」
福田が口火を切った。
「私が参院選のあと辞任したというのも 私なりに政策的な思慮があってのことだった。それに第一に党の姿勢、体質の問題だ。ひところ全国を歩くと新党を作って出直せという声もあったが 結論としては私はとらなかった。だが出直し改革を行って……つまり新党的な感覚をもって体制内改革をし 党のイメージ・チェンジを図ることだ。新総裁はこれができる人物でなくてはならない」

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「具体的には どういうことになります?」
と中曽根は問いかけた。福田は答えた。
「党則、党運営、政治資金のあり方をただすことだ。二番目に経済の安定……つまり世界経済の中での日本経済を考え インフレを抑止すること。健全、堅実な安定成長を期すこと……これも新総裁の課題だ」
福田のあと中曽根が自分の意見を加えた。
「経済については福田さんの仰せの通りだが 外交、防衛問題もある。やはり外交と安全保障は同じ保守党政権である以上、誰が総裁になっても その継続性が保証されなくてはならない。それでないと対外信用にかかわる。
もう一つ、ご三方と私と 日中外交などについてはニュアンスの違った理念をもっているが、このために新政権に対して誤解、疑惑を生じさせないように措置することも大事なことの一つと思います」
そのあと中曽根は大平を指名した。
「今……中曽根君がいったような……外交、安全保障の意見には賛成だ。が 経済についていえば……これは国際ルールの範囲内で 節度ある運営がなくてはならんでしょうな。インフレの克服、社会的公正の確保……これも新総裁は実現していくべきだ」

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