000

左翼は偽善者、保守派は正義

+本文表示

だよね?

313

これを受け取ってさらりと眼を通した椎名は
「ふーむ 河野君を立てるということかね」
と独り言のようにつぶやいた。
河野自身も こうした動きに乗って公選に出馬することが是か非か思い悩んだ。仲間たちの大勢は
― 党再建の起爆剤になる。
― 将来の河野派への布石だ。
といった思惑から 河野出馬の方向へぐんぐん動いて行った。
「30票は取れる。それでいいじゃないか」
という声もあった。
とうとう河野も出馬を決意した。
こうなると中曽根も黙ってはいられなかった。河野やそのグループの何人かを呼んで
「今日の情況は話し合い選出以外にない。それを公選を想定し 出馬を決めるなど慎むべきだ。河野君は若いのだから 将来大をなすことを考え自重して欲しい」と説いた。
三木も同じように河野擁立グループを諭した。
田中派では七日会会長の西村英一が小林正巳たちを呼んで
「田中派にいながらそうした行動を起こすのは筋が通らん。やるなら脱派してやれ」と厳しく申し渡した。
結果としては公選がなく この運動はあだ花に終わった。― が、それはある意味でこの頃の党の混乱を象徴する事件であり また今後の若手政治家の擡頭を暗示する事件でもあった。

314

午後、椎名は顧問会議に臨んだ。
自民党顧問― という存在は党則にはその厳密な規定はない。顧問そのものは常識からいって「首相経験者」「衆参議長経験者」「25年以上勤続した国会議員」のうち現に党の他の役職に就いていない者― それらの人々であった。
午後1時― 会議室には岸信介、佐藤栄作元首相、船田中、石井光次郎元衆議院議長、三木、中曽根の両実力者たち、あわせて49人の顧問が顔を揃えた。
自民党がこれほど多数にして華麗な顧問会議を招集したことは いまだかつてないことであった。
これに執行部から椎名副総裁、二階堂幹事長、鈴木総務会長、山中政調会長が出席した。顧問たちの発言は時局柄 談論風発で 多くの意見が飛び交った。
「時局重大なので総裁選任は話し合いで行うべきである」というのが大勢で その方法は
「党の機関に諮って執行部の責任で収拾するのが妥当である」
「候補と目される大平、福田、三木、中曽根四氏が徹底的に話し合うべきである」
といった見解が示された。
最終的に顧問会議は
「われわれ顧問の代表と党執行部と 今後協議しつつ後継者選出に臨む」
「顧問代表に佐藤、船田氏をあげる」ことを決定した。

315

この顧問会議の席で、椎名副総裁はときに眼を閉じたり 腕組みしたり また頬杖をついたりしながら 顧問たちの話を聞くようでもあれば 聞かないような様子でもあった。椎名は肚の中で
― 多数の顧問の間で一致した意見など出るもんじゃない。
はじめからそう決めてかかっていたのである。
― まあ党内各派、各層の意見の縮図として参考になる程度か。
そんな評価しか与えていなかった。
顧問会議が代表として選んだ佐藤栄作が 椎名に向かって
「今後、副総裁、党三役は 顧問会議と相談してことを進めてもらいたい」と発言した時、椎名はきっぱりと答えた。
「顧問会議の意見は あくまで参考意見として扱います……」
これには佐藤が色をなした。
「私たちの見解を無視するのか」
「いや、あくまで参考に致します」
椎名はそういい切った。
この時、すでに椎名は
― 大平、福田、三木、中曽根の四実力者に自分が調整役として加わり、この五者会談で結論を出す。
という肚を決めていた。

316

11月19日、私鉄のストがあって都内の交通は混乱していた。「何をしたらいいのか、どこへ行ったらいいのか」こういった思いはこのところ一週間 私につきまとってどうにも落ち着かない。宏池会にも行く気がしない。とうとう意を決して出かけると鈴木善幸がただ一人 留守番をしていた。
「昨日の田中・大平会談で臨時党大会を開くことになった。これでことは決する。両院議員総会と臨時党大会だ。田中は手紙を書いて辞意を表明することになった」
鈴木は私の顔を見ると こう説明してくれた。
〈手紙を書いて これを両院議員総会で読み上げる。このやり方は吉田や池田の引退の時と同じ筆法だな〉と内心で思いつつ「臨時党大会と両院議員総会のつながり」がちょっと不安だった。私はこの案を大平に述べながら自分でも落ち着かなかったことを思い出して
「ここが心配ですね」
といった。
「党則通りに大会を開くのがどこが悪いのか」
鈴木は力んでそういった。〈この案は私も考えたし 大平とも相談した〉とよっぽど言おうと思ったが 得々として説明する鈴木の顔を見ると 私はそれがいえなくなってしまう。

317

〈だがいいさ、事態は私の考えていた通りに動いているじゃないか。鈴木がこれほど力んで話すのだから 成算はあるのだろう〉私はこう思い返すことにした。

11月22日、前回の行きがかりから 今里と今夜は夕食を共にすることになっていた。約束の時間を一時間以上遅れて やっと今里がやってきた。「何かあったな」と思った。雑談の途中で
「大平の可能性はなくなった」
と今里は何気なく話した。今里は私と大平との関係を知っているはずなので「どういうことかな」と思った。「立ち入って聞くのは失礼だから」と私はそのまま帰った。後で判ったが 椎名はこの時、財界人と会っていた。その中に今里も交じっていたのではなかろうか。
この11月20日頃から12月1日の椎名裁定までの十日間に何が起きたのかは 私の記憶のどこを見ても何も見つからない。
確かに二階堂は幹事長であったし 鈴木は総務会長であった。大平と田中が会って党則通り後継者を決めることになっていた。ところが椎名副総裁が富士山麓の山荘から急遽帰京して以来 いつの間にか公選論が立ち消えとなり、同時に二階堂と鈴木が政局の前面から姿を消してしまう。

318

これに代わって党の基本問題調査会長としての椎名が前面に出て 一切の仕事をとりしきりだした。
後で判ったが 椎名は副総裁の立場で党内を収拾しようとしていたのだ。当時、田中角栄は心理的に激しく動揺して動きがとれなくなっていた。心痛のあまり顔が歪んで注射で治療していたといわれる。田中は総理として執務をとるのさえ嫌がり 人と顔を合わせるのも避けたがった。重病人でもない田中が 書簡方式で辞意を表明するのもおかしな話だ。フォード大統領を招待した陛下の宮中晩餐会で 田中総理は何か常識外れの挨拶をしたともいう。いずれにしても総裁に事故ある時は副総裁の椎名がこの田中の代行者として職務を執行する。そういう手筈ではなかったのか。だから二階堂と鈴木は簡単に椎名の手で抑えられてしまったのだろう。
もっと突っ込んでいえば 田中はこの時、椎名に一切の権限を付与して政局を収拾させようとしたのだ。そして そのことは第一回の外遊の際 田中首相が衆参両院議長を訪ねて挨拶した時、参院の河野謙三議長に はしなくも本心を伝えたことと深いつながりがあった。大平も私もそのことを全く知らなかった。

319

11月25日、私は宏池会で久保記者に会った。久保は椎名との会見の模様を話してくれた。
「椎名は大平が後継者となる目はない といっている。椎名は福田と大平をはり合わせ 田中、椎名、三木、中曽根の四派で政権を維持してゆこうと考えている」
久保の話を聞きながら 私はこの椎名構想にどことなく漂う田中の匂いを感じて「変だな」と思った。一番ピンときたのは「福田と大平をはり合わせる」という考え方だ。椎名の背後に田中がいるのではないか。私はそう思った。だがあまりにばかばかしいので「椎名も妙なことを考えるな」と思ったきり忘れてしまった。
これも後で判ったのだが 椎名は党役員会で公選方式はとらず話し合い方式とすることに決定したらしい。鈴木は何ら反対することなく すんなり引き下がってしまった。宏池会の幹部会は鈴木の報告を聞いて「おかしいな」と一様に思ったが 何の異議も唱えなかったという。一番奇妙なことは二階堂幹事長の行動だ。「田中角栄が風邪をひけば肺炎になる」といわれたこの男が椎名の考えに何ら反対しなかった。これは椎名の考えがそのまま田中の考えとして受けとられている証拠ではなかったか。

320

11月28日、私は朝日新聞の官邸キャップ中島記者と会った。中島は
「大平派には孤立感がある。第一線の記者は誰が後継者になるのか判らなくなってきた。前尾ではないかとの観測が流れている」
といった。
私にはその実感が一つもない。こんな時は私が事物の中心にいないときだ。もっと正確にいえば 事物の中心が私を離れ 別のところへ移動しているときである。私には前尾が後継者とはどうしても思えない。だが政局の中心にある椎名は 一時そう考えたのかもしれない。

11月29日から大平、福田、三木の三実力者と椎名副総裁が会って 話を重ねつつ後継総裁を決定する “儀式” が始まった。椎名はいったいどこへ落とそうとするつもりなのか。
この日から会談に 中曽根は事務局長格として椎名のそばに座り 話し合いを記録することになったという。
田中角栄の金権政治に反対する世論は異常な高まりを見せ 自民党は危機にあった。当然、椎名を中心とする話し合いは関心の的となり、その話し合いの中からどういう新総裁が選び出されるか注視していた。党内は重苦しい重圧のようなものを感じていた。

321

椎名が本格的に調整役として行動を起こし始めたのは11月29日からであった。最終の調整は自分と四実力者の五者会談で― と考えた椎名は まず四人の実力者の一人一人と要談するところから行動をスタートさせた。
― 各自の肚の中、胸中をすっかり見極めておくこと。
― 五者会談で後継者を決定することについて 承諾を取りつけること。
それを考慮しての行動であった。
この日、椎名が真っ先に党本部に招いたのは三木武夫である。
「率直に後継問題について 君の意見を聞かせてくれないか……」
そういう椎名に 三木は熱をこめて語り始めた。
「衆目のみるところでは 実力者といわれる者は 誰であろうと今日の事態収拾に重大な責任を感じなければならない。そこでこのさい大平、福田、中曽根氏それに僕の四人があなたを交えてだね、名誉と責任をかけ徹底的に話し合った上で結論を出すべきだ……と思う」
三木は椎名と同じく五者会談による決着を提案したわけである。椎名はいちいちうなずきながら耳を傾けていた後、このようにいった。
「五者会談……わしもそう思っている。が、方法としては具体的に総裁候補の名をあげて話し合いたい。

322

もっとも総裁候補といっても大平、福田、中曽根君それに君と……四人だ。その中から選ぶことは党内常識になっている。とにかくこの四人のうち誰が後継者として適切か……ざっくばらんに虚心坦懐に話したらどうか……と思うんだがね」
「広く党内の意見を聴取しながら……という背景があれば それでよいと思う」
と三木は答えた。加えて三木は 政治姿勢と政策の問題に言及した。
「自民党が今 世論から問われているのは金に依存する体質だ。田中首相の退陣で済んだわけではない。このさい後継総裁は総裁公選の改正、政治資金の規制、金のかかる選挙の是正……など 党の体質を改革すること、インフレ防止のための総需要抑制、倒産を防ぐための個別的配慮などを行うこと……これが条件だ。それでないと自民党は終焉を迎えることになる」
続いて午前11時、椎名が呼んだのは中曽根康弘であった。ここのところ この二人は頻繁に連絡があって よく意思を疎通させていた。椎名が
「わしと四実力者の話し合いで後継者を決める……というのはどうだろう」と訊くと 中曽根はこう答えた。
「いいでしょう。しかし総裁候補は敢えて四人と限る必要はありますまい。

コメント本文必須

残り文字

名前/性別

トリップキー16文字マデトリップキーとは

ハッシュタグ

記号(@、+、-、!、?など)はご利用いただけません。

動画10MBマデ


画像5MBマデ(JPG|GIF|PNG)


削除PASS半角英数4〜16文字マデ

共有動画YouTubeの共有URLを入力

ホスラブは完全匿名で投稿できますが、ガイドラインをよくお読みになってご利用ください。

同意してコメント

1.アクセスログの保存期間は原則1か月としております。
尚、アクセスログの個人的公開はいたしません。
2.電話番号や住所などの個人情報に関する書き込みは禁止します。
3.第三者の知的財産権、その他の権利を侵害する行為又は侵害する恐れのある投稿は禁止します。
4.すべての書き込みの責任は書き込み者に帰属されます。
5.公序良俗に反する投稿は禁止します。
6.性器の露出、性器を描写した画像の投稿は禁止します。
7.児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(いわゆる児童ポルノ法)の規制となる投稿は禁止します。
8.残虐な情報、動物を殺傷・虐待する画像等の投稿、その他社会通念上他人に著しく嫌悪感を抱かせる情報を不特定多数の者に対して送信する投稿は禁止します。

利用規約に反する行為・同内容の投稿を繰り返す等の荒らし行為に関しては、投稿者に対して書き込み禁止措置をとる場合が御座います。

四国版の掲示板一覧

copyright© hostlove.com All Rights Reserved.

トリップキーとは?

個人を識別するためのキーです。
トリップキーに入力された文字列から、
毎回同じ暗号文字が生成
されます。

例:[ホスラブ] → u7hgpnMxsk

※他者にはトリップキーに入力された文字列が分からないと、同じ暗号文字を作ることはできないため、掲示板などで個人を証明するために用いられています。
※16文字以内で他者に推測されない任意の文字列を使用してください
1.アクセスログの保存期間は原則1か月としております。
尚、アクセスログの個人的公開はいたしません。
2.電話番号や住所などの個人情報に関する書き込みは禁止します。
3.第三者の知的財産権、その他の権利を侵害する行為又は侵害する恐れのある投稿は禁止します。
4.すべての書き込みの責任は書き込み者に帰属されます。
5.公序良俗に反する投稿は禁止します。
6.性器の露出、性器を描写した画像の投稿は禁止します。
7.児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(いわゆる児童ポルノ法)の規制となる投稿は禁止します。
8.残虐な情報、動物を殺傷・虐待する画像等の投稿、その他社会通念上他人に著しく嫌悪感を抱かせる情報を不特定多数の者に対して送信する投稿は禁止します。

利用規約に反する行為・同内容の投稿を繰り返す等の荒らし行為に関しては、投稿者に対して書き込み禁止措置をとる場合が御座います。

お手持ちのスマートフォンで下記QRコードを読み取ってください

友達にこのページをLINEで送信する事が出来ます。

名前/性別6文字マデ

トリップキー16文字マデトリップキーとは

コメント本文必須

残り文字

ハッシュタグ

記号(@、+、-、!、?など)はご利用いただけません。

画像5MBマデ(JPG|GIF|PNG)


削除PASS半角英数4〜16文字マデ

共有動画YouTubeの共有URLを貼り付けて下さい。

ホスラブは完全匿名で投稿できますが、ガイドラインをよくお読みになってご利用ください。

同意して投稿

ローカルルールと検索方法

政治・選挙・国際政治(社会・政治・経済)

ローカルルール違反の話題作成は削除対象になります。